プログレスバーが98%で止まった。会場のキャプテンが後ろから「あと5分で流します」と小声で言う。あの3分間ほど、自分の心拍数を意識したことはない。

結果的に間に合った。ただ、間に合ったのは運が良かっただけで、段取りは完全に破綻していた。
撮って出しエンドロールは、挙式から披露宴中盤までの映像をその場で編集し、お開き前に上映する演出だ。ゲストの反応が一番大きい一方で、撮影と編集を同時に回す、かなり無茶な仕事でもある。
あの夜を境に組み直した段取りを、時系列で書いておく。
破綻した原因は「編集の遅さ」ではなかった
最初は、自分の編集が遅いからギリギリになったと思っていた。
振り返ってみると、時間を食っていたのは編集そのものではなかった。
- SDカードからPCへの取り込みに、想定の倍以上かかった
- 取り込み中に次の撮影に呼ばれて、コピーが途中で止まっていた
- BGMの尺と素材の尺が合わず、構成を2回組み直した
編集以外の「つなぎ」の部分で、30分以上溶けていた。
撮って出しは、編集スピードの勝負ではない。待ち時間を消す段取りの勝負だ。
前日までに終わらせておくこと
当日に考える量を、限界まで減らしておく。
テンプレートを完成させておく。 タイトル、新郎新婦の名前、日付、エンドクレジットの入ったプロジェクトを前日までに作る。当日は素材を差し込むだけの状態にしておく。
BGMのカット割りを決めておく。 曲のどこで挙式、どこで入場、どこで乾杯を見せるか。マーカーを打っておけば、当日は尺を合わせる必要すらない。
書き出し設定のテストをしておく。 会場のプロジェクターにつなぐ形式、再生機材、ファイル名。前日に会場担当者と確認しておかないと、書き出し後に「その形式は再生できません」で終わる。
当日のタイムライン
実際の段取りはこうなっている。
| タイミング | やること |
|---|---|
| 挙式終了直後 | 1枚目のSDカードを抜いて取り込み開始。予備カードでそのまま撮影続行 |
| 披露宴入場〜乾杯 | 撮影に集中。取り込みはPCに任せる |
| 乾杯後〜歓談中 | 2枚目を取り込みつつ、挙式パートの編集 |
| 中座あたり | 素材の受け付けを締め切り、仕上げに入る |
| お開きの30分前 | 書き出し開始。ここを絶対に動かさない |
最後の「30分前に書き出し」が肝だ。ここから逆算して、中座以降の素材は使わないと最初から割り切る。あれもこれも入れたくなるが、入れた分だけ事故のリスクが増える。
カードとPCの取り込み速度は、侮るとやられる
取り込みで詰まった反省から、撮って出しの日は読み書きが速いカードを使うことにしている。
撮影側のメモリーカードが遅いと、PCがいくら速くても取り込みは速くならない。カードリーダーも同じで、カードの速度に対応していないリーダーだと宝の持ち腐れになる。
カードは1枚に全部詰め込まず、挙式用・披露宴用で分けておく。1枚目を取り込んでいる間に2枚目で撮り続けられるし、万が一のデータ消失のリスクも分散できる。カードで痛い目を見た話は業務用SDカードの選び方|二次会の余興ムービーで全データが飛んだ日に書いた。
編集中に「迷わない」ための自分ルール
撮って出しで一番の敵は、迷いだ。
- 使うカットは1シーン最大3つまで
- テロップは最初と最後だけ。途中には入れない
- カラー補正は全体に1つだけ当てて終わり
- 手元PCでの再生確認は、書き出し後に1回だけ通しで見る
凝りたい気持ちは、本編の納品で晴らせばいい。
撮り逃しを減らすためのアングルの考え方は、ブライダル撮影の指輪交換アングル|正面からしか撮れず後悔した日も参考になると思う。撮って出しでは「後で探す」時間が無いので、使う前提のカットを狙って撮る意識が特に大事になる。
ちなみに、撮って出しの上映中にゲストが泣いているのを見て感動していると、キャプテンに「カメラマンさん、送賓の準備お願いします」と肩を叩かれる。余韻に浸れる時間は、だいたい15秒しかない。
まとめ
あの98%で止まったプログレスバーは、今でもときどき夢に出る。
撮って出しは「速く編集できる人」の仕事だと思われがちだが、実際は「前日にどれだけ終わらせておけるか」の仕事だ。当日の自分を信用しない。それが一番の近道だった。
この記事を書いた人
映像制作歴8年、ブライダル・MV・ライブ撮影を中心にこれまで300件以上の現場に立ってきた映像クリエイター。撮影から編集まで一貫して手がけ、現場でしか分からないリアルな機材選び・編集ノウハウを発信しています。



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