PA卓の横、ステージまでおよそ15メートル。標準ズームの望遠端で覗いたボーカルは、ファインダーの中で親指の爪くらいの大きさしかなかった。

あの夜の素材は、ほぼ全カットを編集でクロップして使った。4Kで撮っていたから何とか形にはなったが、暗いライブハウスの高感度ノイズまで一緒に拡大されて、画は正直ボロボロだった。
ライブ撮影で「後方固定カメラ」を任される機会がある人なら、望遠ズームは避けて通れない。ここでは、ライブハウスからホールクラスまでを想定して、現場目線で3本に絞った。
そもそも、なぜ「後方」から撮ることになるのか
最前列やステージ袖に張り付けるのは、メインのカメラマンかスタッフパスを持った一部だけだ。2台目・3台目のカメラは、たいてい客席後方か、PA卓の脇か、2階席の手すりに追いやられる。
しかも、客の頭が画面に入らない高さまで三脚を伸ばすと、揺れに弱くなる。脚まわりの話はライブ撮影の三脚選び、ステージ後方と最前列で正解が違うに書いたので、ここではレンズ側に絞る。
後方から撮る以上、必要なのは「距離を詰める焦点距離」と「暗さに耐える明るさ」の2つ。この2つは基本的にトレードオフで、両方を取りにいくと重さと予算が跳ね上がる。
ライブの望遠選びは、焦点距離・明るさ・重さの三角形のどこを捨てるかを決める作業だ。
選ぶ前に決めておく3つの基準
### 1. 撮影位置からステージまでの距離
ライブハウス規模なら70-200mmクラスで大体収まる。ホールの2階席や、アリーナの後方スタンドになると200mmでも引きすぎて、上半身アップが作れない。
自分がよく入る会場の距離を、一度スマホの地図アプリで測っておくといい。これをやるだけで「買ったのに足りなかった」がかなり減る。
### 2. F2.8が必要かどうか
照明が派手なバンドなら、F4でも意外と何とかなる。問題はMCの時間と、バラードで照明が一気に落ちる曲だ。
ここでF4だとISOが一段上がる。一段の差は小さく見えて、暗部のノイズの出方ははっきり変わる。
### 3. 手ブレ補正と重さ
後方固定なら三脚に載せるので、手ブレ補正の優先度は下がる。ただし、一脚運用や、客席内を移動しながら撮る案件が混ざるなら話は別だ。
重さは軽視されがちだが、2時間半のワンマンで一脚を持ち続けると、アンコール前に腕が震えてくる。これは本当にそうなる。
比較表
| 順位 | レンズ | 開放F値 | 向いている現場 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 1位 | Tamron 70-180mm F/2.8 Di III VXD G2 | F2.8通し | ライブハウス〜中規模ホール | 望遠端が200mmに少し届かない |
| 2位 | Sony FE 70-200mm F4 Macro G OSS II | F4通し | 照明が明るい現場・一脚運用 | 暗転の多い曲はISOが厳しい |
| 3位 | Sony FE 70-200mm F2.8 GM OSS II | F2.8通し | ホール・長丁場・案件単価が高い現場 | 予算と重さの覚悟が要る |
※ Eマウント前提で選んでいる。他マウントの人は、同クラスの「70-200mm F2.8」「70-200mm F4」に置き換えて読んでほしい。
1位: Tamron 70-180mm F/2.8 Di III VXD G2
正直、ライブハウス中心ならこれ一択。
F2.8通しでありながら、純正の70-200mm F2.8クラスと比べると明らかに軽く、価格も抑えめ。後方固定カメラは「メインではない2台目」になりやすいので、そこに純正GMを投入するのは費用対効果が合わないことが多い。
200mmではなく180mmなのは、実際の現場ではほとんど気にならなかった。4K収録でFHD納品なら、多少のクロップ耐性もある。
一つだけ言うと、ズームリングの回転方向が純正と逆になっているモデルもあるので、純正レンズと混在させる人は最初の1〜2現場で必ず戸惑う。本番前に一度、暗い部屋でズーム操作の練習をしておいた方がいい。
2位: Sony FE 70-200mm F4 Macro G OSS II
明るさを一段捨てる代わりに、軽さと扱いやすさを取るならこっち。
アイドル系や、照明がずっと明るいフェス系のステージなら、F4でも十分に戦える。レンズ内手ブレ補正があるので、一脚で客席内を動きながら撮る案件とも相性がいい。
ただ、ロックバンドのワンマンで、バラード中に照明が青一色のピンスポットだけになった瞬間、F4の限界がモロに出た。ISOを上げるしかなく、その曲だけ明らかに画が荒れた。
照明が読めない現場が多い人は、この一段をケチらない方がいい。
3位: Sony FE 70-200mm F2.8 GM OSS II
AF、描写、手ブレ補正、どれも文句のつけようがない。問題は、文句のつけようがないものを買うための予算だ。
ホールクラスのライブ収録で、後方カメラの映像がそのままパッケージ化されるような案件を受けるなら、これを選ぶ意味はある。逆に、ライブハウスの記録撮影が中心なら、1位との差額でマイクや予備バッテリーを揃えた方が、現場の事故は確実に減る。
ちなみに業界の飲み会で「GM持ってる」と言うと一瞬だけ尊敬されるが、その次に必ず「で、ローン何回?」と聞かれる。
焦点距離が足りないときの逃げ道
どのレンズを選んでも、会場によっては足りない日が来る。そのときの逃げ道は2つある。
- 4Kで撮ってFHDに切り出す: 最大で2倍相当まで寄れる。ただし暗所ノイズも拡大されるので、ISOを上げすぎないことが前提
- カメラ側のAPS-Cクロップモードを使う: フルサイズ機なら焦点距離を1.5倍相当に伸ばせる。解像度は落ちるが、画角が足りないよりはずっとマシ
複数台のカメラをどう配置してどう切り替えるかは、ライブ撮影のマルチカメラ切り替えのコツ|3台を一人で回して中途半端になった夜で書いた。望遠カメラは「寄りの専用機」と割り切ると、他のカメラの役割もはっきりする。
まとめ
望遠レンズの比較記事は、だいたい最後に「予算に合わせて選ぼう」で終わる。でも実際のところ、ライブ撮影で後悔するのは予算よりも「距離を測らずに買ったこと」の方が圧倒的に多い。
次の現場に入ったら、レンズを買う前に、まずPA卓からステージまで歩いて歩数を数えてみてほしい。怪しまれない程度に。
この記事を書いた人
映像制作歴8年、ブライダル・MV・ライブ撮影を中心にこれまで300件以上の現場に立ってきた映像クリエイター。撮影から編集まで一貫して手がけ、現場でしか分からないリアルな機材選び・編集ノウハウを発信しています。



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