誓いの言葉の「健やかなるときも」の直後、ヘッドホンに「ガサッ、ゴソッ」と大きな音が入った。新郎が緊張で胸に手を当てた瞬間だった。

マイクは鳴っていた。電波も切れていない。録れてはいたのに、使えなかった。
ピンマイクの失敗というと「電池切れ」「混信」を想像しがちだが、自分がいちばん痛い目を見たのは、付ける位置のほうだ。機種選びについては誓いの言葉が無音で録れていた日。ワイヤレスピンマイクの選び方に書いたので、今回は「どこに、どう付けるか」だけを書く。
衣擦れの正体は「布と布がこすれる場所」にマイクを置いたこと
あの日、マイクはタキシードのラペル(下襟)の、ちょうど胸の真ん中あたりにクリップで留めていた。教科書どおりの位置だ。
問題は新郎のクセだった。緊張すると胸に手を当てる。お辞儀が深い。しかもブートニア(胸の花)がすぐ横にあって、動くたびに花びらがマイクをなでていた。
音を聴き直すと、ノイズは3種類あった。
- 手が触れたときの「ボコッ」という打撃音
- ブートニアが擦れる「サリサリ」という高い音
- お辞儀でラペルが折れたときの「ガサッ」
どれもノイズ除去プラグインでは消しきれない。声と同じ帯域に乗ってくるからだ。後処理で頑張った話は音声ノイズ除去の手順と失敗例|新婦の手紙朗読で空調音が主役になった話でも書いたが、衣擦れは空調音よりはるかにタチが悪い。
衣擦れは編集で消せない。付ける前に消すしかない。
新郎のピンマイクの位置:タキシードはラペルの「裏」、ベストは第2ボタン
今の自分の定位置はこうだ。
ジャケットを着たままの挙式なら、ラペルの裏側に隠す。 襟の折り返しの内側、ボタンホールより少し上に、マイクヘッドだけが襟の縁から数ミリ覗く程度に留める。表から見えないし、手が触れても直接当たらない。
ベストがある衣装なら、ベストの第2ボタンの内側。 ジャケットが開いても閉じても位置が変わらないので、実はいちばん安定する。披露宴でジャケットを脱ぐ新郎も多いので、お色直しのたびに付け替えなくて済む。
ブートニアとは必ず反対側に付ける。 これだけで「サリサリ」はほぼ消えた。花は左胸が定番なので、マイクは右側に寄せる。
ケーブルはシャツと肌着のあいだを通し、ループを1つ作ってからテープで留める。このループが、体が動いたときにケーブルが引っ張られる力を逃がしてくれる。ループを作らないと、ケーブルの振動がそのままマイクに伝わって「ゴトゴト」という低い音になる。
新婦はどこに付けるか:ドレスには「付けない」選択肢もある
新婦のほうが正直むずかしい。ウェディングドレスは胸元にクリップを留める場所がほとんど無いし、ビーズやレースは最悪の衣擦れ源になる。
自分の優先順位はこうだ。
| 衣装 | 付け位置 | 注意点 |
|---|---|---|
| ビスチェ型ドレス | 胸元の縁の内側(中央) | ビーズ・レースが無い部分を選ぶ |
| レース・ビーズの多いドレス | 付けない(新郎側で拾う) | 誓いの言葉は新郎のマイクで十分届く |
| 色打掛・白無垢 | 衿の合わせの内側 | 着付け師さんに必ず確認してから |
| カラードレス(二次会・お色直し) | 状況次第で付けない | 付け替えの時間が取れないことが多い |
挙式の誓いの言葉は、新郎新婦がほぼ並んで立つ。新郎のマイク1本で新婦の声も十分拾えることが多い。無理にドレスに付けて衣擦れまみれにするより、1本をきれいに録るほうが編集は楽だ。
和装の場合は、自分で付けない。着付けが崩れると大ごとになるので、着付け師さんに「このくらいの大きさのマイクを、衿の内側に」と見せて、付けてもらう。これは本当に大事で、勝手に衿に手を入れて空気が凍った先輩を見たことがある。
送信機の隠し場所と、付けるタイミング
マイクヘッドの位置が決まっても、送信機(トランスミッター)の置き場所で失敗することもある。
新郎なら、スラックスの腰の後ろ、ベルトかサスペンダーのあたりにクリップで留める。ジャケットの内ポケットは、お辞儀で送信機が胸側に振られてマイクケーブルを引っ張るので避けている。
一体型の小さい送信機なら、ラペルに直接留めて完結させる手もある。最近の機種はかなり小さくなっていて、ケーブルの取り回しを丸ごと省けるのは大きい。
付けるタイミングは、支度が終わって写真撮影に入る前。挙式直前に付けに行くと、新郎の緊張がピークで余計な会話が増えるし、スタッフの動線を邪魔する。
付けたあとに必ずやる「10秒テスト」
付けたら、その場で新郎にこう頼む。
「胸に手を当てて、深めにお辞儀して、何か一言しゃべってください」
これで打撃音、ラペルの折れ、ブートニアの接触が一気に確認できる。ヘッドホンで聴いて、ガサッと鳴ったら位置を直す。10秒で終わるのに、これをやらなかったせいで誓いの言葉を1本捨てた。
ついでに「本番中、マイクは気にしなくて大丈夫です」と一言添える。意識させると、新郎は高確率でマイクを触る。人間はそういうものだ。
まとめ
ピンマイクの性能差より、付ける位置の差のほうが、仕上がりの音にはよほど効く。高い機種を買った直後に衣擦れで全部台無しにした経験者として、断言しておく。
次の現場では、ブートニアの位置を確認してから、マイクを反対側の襟の裏に隠してみてほしい。それと、新郎が胸に手を当てるタイプかどうかは、打ち合わせの時点でだいたい分かる。
この記事を書いた人
映像制作歴8年、ブライダル・MV・ライブ撮影を中心にこれまで300件以上の現場に立ってきた映像クリエイター。撮影から編集まで一貫して手がけ、現場でしか分からないリアルな機材選び・編集ノウハウを発信しています。



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